去年の夏、三重県伊勢志摩方面・多気郡へアウトドア遊びをしに行った。
友達とカヌー・カヤック ツーリングである。
友達の友達らも参加して、計15人。
7月下旬の暑い日だ。
僕たちは宮川上流で、小さな滝のようなものを見つけた。
上陸できる川岸にある。
みんなは駆け寄って行き、
記念写真を撮り始めた。
彼らへ「滝に打たれている写真がほしい!」と頼んだら・・・
滝を頭にぶっかけ、ポーズをとってくれた。
いい写真だ。
みんなも僕にリクエストしてきた。
「写真を撮ってばかりいずに、Takaも写りなさいよ~!」
こちらに視線を向けて微笑んでいる。
「僕? 僕は今日カメラマンだし・・・」
そう言って断ろうとしたが、無理だった。
頭から滝に打たれている僕の姿を撮るらしい。
冷たそうな水だが、夏だから大丈夫だろう。
覚悟を決めた。
無理だった。
左肩だけで精一杯である。
とてつもなく冷たい水だ。
左腕の感覚がおかしくなる。
すぐに滝から抜け出すほうがいいだろう。
だが、
僕が『大学生女子と、滝に打たれているツーショット写真を撮る』なんてことは、めったにない。
『このチャンスを活かせ』
そんな心の声も聞こえる。
『もっと、その子に近づいた写真にするべき』
なるほど。
確かにそうだ。
日常生活では、大学生女子のそばに寄ることは不可能。
僕の友達らだけを集めたツーリングで、知人とのアウトドア記念写真だからこそO.K.なのだ。
『もっとそばに寄る』=『頭から冷水をかぶる』にチャレンジするべきだろう。
覚悟を決めた。
無理だった。
冷水が、轟音を立てて耳に入ってくる。
すぐに体を離した。
すると、
「俺も滝に挑戦しよっかな~」と言い出した男がいた。
『棒銀のテツ』だ。
棒銀のテツ
テツとTakaが初めて会った場所は、今は無き伊勢市駅前ジャスコA館で開催された、トーナメント式の将棋大会
棒銀戦法でTakaに勝った男
テツに初めて会ったのは小学六年生のときだ。
将棋大会で、自信満々の僕は彼に負けた。
その後、再会して今はUNOのライバルである。
絶対に負けられない。
彼は、軽やかなステップを踏んでこっちに来た。
仕方がない、お手並みを拝見するとしよう。
僕はポジションを空けた。
冷たくなった肌は、真夏の太陽のおかげですぐに温かくなり、乾き始めている。
テツと目が合った。
二人の間で滝の音が鳴り響く。
勝負は・・・
僕の
負けだった。
テツは頭から滝に打たれてはいないが、大量の冷水を体で受けている。
特に彼の右半身は、ずぶ濡れだ。
『右半身?』
そう、
僕は左肩、テツは右肩で滝を受けた。
勝負は・・・
僕の
完敗だった。
『その手があったか!』
テツは、頭から滝に打たれることなく、大学生女子に近づいてポーズをとった。
ナチュラルな、いい写真である。
彼の作戦勝ちだ。
こうなったらリベンジしかない。
ワンモアだ。
僕は、みんなに「もう一回チャレンジする!」
そう宣言した。
絶対に負けられない。
しかし、大学生女子は震えながら下へ降りてきた。
無理もない。
みんなが僕に注目している。
「Taka~、頭にぶっかけなよ! がんばりやぁ~!」
『独りでもやるしかない』
滝のそばに立ち、対岸を見渡した。
青い空の下で木々が涼しげに揺れている。
エメラルドグリーンの川面は、鏡のごとく白い光が乱反射している。
宮川は、まるで眠っているように静かだ。
背後から、濃い霧のようなひんやりと湿った空気が流れてくる。
ゆっくりと深呼吸した。
葉の香りと湿った土の匂いがする・・・。
今回のメンバー15人中、7人は女性だ。
女性たちの前で、無様な姿をさらすわけにはいかない。
覚悟を決めた。
無理だった。
もう滝から離れよう・・・。
「あれ? Takaさん濡れてませんよね?」
「真夏は、すぐに乾くね・・・」
「・・・・・・・・・・」
アウトドアは、無理をしたら危険である。
自然をなめないほうがいい。
記者: 伊勢育ちTaka