「Takaは、巨大な赤い鳥を見たい?」
去年の夏、『エクセ カヌーツアーズ 伊勢志摩店』の代表が、コーヒーにミルクを入れながら僕に言った。
「宮川へ下見をしに行くんだけど、Takaも行かん?」
「サイトに載せる体験ツアー 川下りコースの写真が必要だし、行くわ~」
僕は宮川で大きな赤い鳥を見たことがない。
今回の下見中、限りなく100%に近い確率で、僕に見せることができるという。
代表は、さすがにアウトドアの達人だ。
僕たちが『水道管橋』と呼んでいる場所からエントリーした。
ゴールは下流にある『宮川ラブリバー公園』の予定だ。
「ここは、カヌー・カヤック体験ツアーのスタート地点にはできないな~・・・、お客さんの車にキズが付くかもしれん・・・」
代表は、お客様視点でいろいろとチェックをしているようだった。
天気は曇り。
今にも雨が降りそうである。
涼しくていい。
頻繁に鳥と遭遇するが、普通の大きさだ。
どこに、巨大な赤い鳥がいるのだろうか。
「ほら、あれ!」
そう言って、指さす代表。
まさか・・・。
「でっかいやろ~」
「あれ、白い鳥だと思う・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
どんよりとした空に、ゆっくりと黒雲が流れていた・・・。
「ドッドッドッドッ」と、単調なリズムを刻んだ音が、頭の奥で響く。
水を吸い上げる機械の音だ。
度会橋が見えてきた。
この辺は、三重県伊勢市出身の僕にとって、思い出が沢山あるところである。
食事休憩のために、上陸。
弁当を食べながら、耳を澄ましていた。
少しでも気付くのが遅くなれば、失敗するからだ。
クーラーボックスから麦茶を取り出し、ため息をついた。
カタカタカタッ。
遠くから、振動音が聞こえてきた。
「来た~!」
代表が叫んだ。
素早くカメラを構える僕。
『ブラックアウト!』
こんな時に、まさかのブラックアウト・・・。
写真を撮れなかった。
原因不明だ。
「上手く撮れた?」
「なんかカメラの調子がイマイチで・・・」
僕はカメラのマニュアルで原因を調べた。
だが、分からない・・・。
買ってから、まだ1ヶ月しか経っていないのに・・・、故障か?
カメラをよく見た。
レンズにキャップが付いている!
『人生には、上り坂と下り坂だけでなく、「まさか」の坂もある』
そんな言葉を思い出した。
カタカタカタッ。
「来た~!」
小刻みに鐘を叩いたような音色を奏で、通過するJR列車。
やっと撮影できた。
キャップを外していないから撮れなかったことは、代表には秘密にしておこう。
次は、近鉄電車に挑戦だ。
なんとか成功。
海が見える。
もうゴールだ。
こうして、長い一日は終わった。
「写真をいっぱい撮ったから、サイトに『水道管橋⇒宮川ラブリバー公園』体験ツアーページを作るね」
「う~ん・・・、下流は透明度が低いから泳ぎにくいし、お客さんは、あまり喜ばないやろな~」
「・・・・・・・」
「ここは、お客さんから特別なリクエストがあったときだけにするわ・・・、ホームページには、このコースは無しやな」
「えっ! じゃあ、今日撮った写真は?」
「全部ボツやな」
「・・・・・・・」
目の前が、
真っ暗になった・・・。
記者: 伊勢育ちTaka